平素は、当測定所をご支援いただきまして誠にありがとうございます。

ママレボという冊子に当測定所を取り上げていただきました。

どういった冊子なのかを「ママレボ」のごあいさつ文から一部転載させていただきます。
「子どもを守りたい」「未来を守りたい」というママの愛で世界を変えようと、各地域で必死にがんばっています。
そんなママたちの活動を紹介するとともに、あまり報道されることのない、福島や東北、北関東、首都圏などの状況をお伝えしていきたいと思っています。
(転載ここまで)

今回掲載していただいた記事が測定所の想いを表していますので、こちらでご紹介させていただきます。

あなたの町の市民測定所
NPO法人 新宿代々木市民測定所
代表 桑野博之さん

「内部被ばくによる被害を、未然に防止してほしい」という思いで、測定値という客観的な事実を公表し続けている「新宿代々木市民測定所」。
とくに、同測定所が実施している尿の放射性セシウム測定には、大きな関心が集まっています。
今回は、代表の桑野博之さんに、その取り組みについて寄稿していただきました。

測定所を始めたきっかけ

原発事故直後、自分の家族を守るために、事実を知る必要があると考えました。
最初は、自宅で放射線測定器ベクレルモニターを用いて食品の放射能測定をしていました。けれど、情報を共有すれば多くの人の命を守ることにつながると考え、測定所を作ることにしました。
2011年8月ごろから、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章先生や、市民エネルギー研究所の小泉好延先生と相談をしながら設立準備を進めました。
構想段階から内部被ばくの問題に関心があったので、当初はホールボディーカウンター専門の測定所にするつもりでした。しかし、内部被ばくを調べるには、とても大がかりな設備が必要で、遮蔽の無い椅子型のホールボディーカウンターでは、まともな測定ができないと知り、方向転換して、食品の測定から始めることにしたのです。

尿の測定を開始

立ち上げの準備に手間どり、測定所をオープンできたのは、2012年4月でした。2013年10月からは、尿の測定も始めました。東京新聞に記事が掲載されて関心を集めたこともあり、2014年10月末までに281名の方の尿の測定を行うことができました。
表1は、5月末時点の集計結果です。こちら
まだ総数は少ないですが、福島県の平均値0.148ベクレル/kgは、東京および隣接県の平均値0.055ベクレル/kgにくらべて高い数字が出ています(対象者は自主的に測定を依頼された方々で、無作為抽出したわけではありません。放射能の防護に対する意識の高い方が多いので、データとして片寄りのあることを念頭に置いてください)。
統計にまとめるのがむずかしいのですが、測定依頼者の一部から、さまざまな体調不良の訴えがあります。
尿の測定値から「体内に蓄積した放射性セシウムの量≪注≫」を推定することができます。ICRP(国際放射線防護委員会)の仮説によれば、成人で尿の放射性セシウム137が0.05ベクレル/kg、一日の尿量が1.6リットルとすれば、体内蓄積量は14ベクレル/ボディという計算になります。
放射性カリウム40の濃度によって左右されますが、16時間測定でセシウム137の検出限界値は、0.04ベクレル/kg程度です。
現在、「沖縄・球美の里」の保養活動や「こども健康相談会」に参加した子どもを対象に、無料測定を行っています。これから他のNPOと連携して、活動の輪を広げていければと考えています。

食品測定は、メーカーもの中心に

限られた測定器のキャパシティで、より広範囲に情報をシェアするという観点から、スーパーの店頭に並ぶような食品メーカーの製品をシリーズで測定しています。
これまでのところ、粉ミルク牛乳、菌床きのこ、豆腐、ヨーグルトなどを測定して、一覧表を公開しています。興味にある方は、測定所のホームページやTwitterをご覧ください。
また、イタリア料理店「エリオ・ロカンダ」(東京都千代田区)さんから、どの海域で獲れた魚介かなど詳細な情報がわかる魚の提供を受けて測定し、その結果を解説していただくという、コラボレーション企画も始めました。

大気の測定で、呼気被ばくを推計

「ハイボリュームエアーサンプラー」(略して”ハイボリ”。外見は百葉箱のような形で、中身は掃除機みたいなもの。フィルターにチリが残る)を使って浮遊塵に含まれる放射能を測定することを計画しています。現在、市民測定所で大気の測定をしているところはあまりありません。行政が数字を出していますが、建物の屋上で測っていることが多く、実際に人が歩いている高さでどうかはわかりません。そのため具体的データが乏しく、呼気による被ばくリスクがわかりにくいのが現状です。

”ハイボリ”を動かすと1分間で1平方メートルの空気を吸います。生活によってちがうでしょうが、人間の1日の呼気量が15平方メートルくらいだそうです。
8時間回せば480平方メートル、1週間回せば1万平方メートルくらいになります。
なるべく長時間回して、できるかぎり低い検出限界まで測ってみるつもりです。
まだ、技術的な問題が残っていますが、小出先生と相談しながらなんとか解決したいと思っています。

検出限界の低減が課題

検出限界をさらに下げるため、ことし2月に2台目のゲルマニウム半導体検出器(以下、ゲルマ)を導入する予定です。このゲルマは、1台目よりもさらに高性能な測定器です。
ひと口にゲルマといっても、ピンからキリまであって、その性能は大きく異なります。遮蔽が甘いゲルマ(たとえば検出器のの下方に遮蔽がないとか、遮蔽体に鉛210で汚れた鉛を使用など)はバックグラウンドの水準が高くなり、低い検出限界を出すのがむずかしくなります。
現在、測定値の計算は、主として小出先生が作ったソフトウェアを利用しています。校正も、小出先生にしていただきました。日本アイソトープ協会の体積線源を使用しています。また、複数のゲルマ間でのクロスチェックも合わせて実施しています。

正しい数字でみずから判断を

何を食べるか、どこに住むかは、その人にとって命の選択であり、自分で考えて判断するしかないと思います。他人が容易に安全だとか、危険だとか言えるようなことではありません。市民測定所にできるのは、正しい数字を出して判断の材料を提供することだけです。
幸いにも、食品の放射能汚染は低下傾向にあります。放射性セシウム137が1ベクレル/kgを超えるような食品は、ずいぶん少なくなりました。慎重に選べば、食品による内部被ばくは、かなり低い水準まで抑えることが可能です。
命を守るためには、放射能以外にも、遺伝子組換食品や農薬、食品添加物など、さまざまな有害物質にも気を付ける必要があります。
日々の生活のなかで、できることを淡々と地道に行っていくのが、たいせつだと思います。
放射能に関してウソを言っているのは、原子力推進側だけではありません。市民の側にいるようにふるまっている人が、平然とウソを言っている場合があります。インターネットで流れる情報をうのみにせず、何がほんとうなのか見きわめてください。

≪注≫放射性物質の体内蓄積量の計算について知りたい方は、こちらをご覧ください。